相談内容

トラウマ・PTSD(虐待、DV、事故など)

PTSDとは、様々なトラウマ(心的外傷体験)にさらされたことで生じるストレス症候群です。
私たちは生死にかかわるような出来事を体験するかもしくは目撃することにより強い恐怖を感じるものです。しかし、通常であれば自己治癒力や周囲からのサポートにより数週間(通常は4週間以内)のうちに記憶が整理されて恐怖が薄れ、その体験が過去のものとして認識されるようになります。

これに対して、PTSDと診断される方は記憶の整理がうまくいかずに、体験を過去のものとして認識できずに大きな傷(トラウマ)として様々な精神的・身体的問題を抱え続けている状態とされます。

PTSDは以下の3つの中核症状からなり、これらに加えて解離症状(記憶を一時的に消すことで自分自身を守ろうとする防衛機能)が合併していることが多いです。

  • 再体験症状…出来事をあたかももう一度体験すること。フラッシュバックや悪夢などが例として挙げられます。
  • 回避・麻痺症状…トラウマに関する物事を避けること。生活の基本的なことができなくなったり、感情の幅が狭まったりとうつ症状のような症状が生じること。
  • 過覚醒症状…心身が興奮して落ち着かないこと。眠れなくなる、中途覚醒、イライラしやすい、集中力の低下、些細なことにひどく驚くなどがあります。

介入

介入は、トラウマについて知ってもらうことや、安心・安全な環境に身を置けるように環境調整をするところから始めることが大半です。その後、ご相談者様がトラウマ治療を望むようであれば、身体感覚を感じ取るワークや身体感覚と感情を繋げるワーク、リラクゼーション法などを一緒に行います。それらの習得後、BCTやTFT、他の心理療法を用いてトラウマケアに入るという流れになっております。

ポロヴェーガル理論

近年、トラウマケアの界隈では「ポリヴェーガル理論(=多重迷走神経理論)」が注目されています。ポリヴェーガル理論は、自律神経系を交感神経系・背側迷走神経複合体・腹側迷走神経複合体の3つに分類した理論です。これまで自律神経系は、交感神経系と副交感神経系の2つの神経からなると言われていましたが、ポリヴェーガル理論では副交感神経系をさらに2つの神経系からなると考えます。

ポリヴェーガル理論イメージ

  • 腹側迷走神経系…私たち人間の身体は「安全」を感じているときに、誰かとつながって共感し合う「社会的交流」を行います。これは人間に特化している能力であり、私たち人間は他の哺乳類と比べても非常に未熟な状態で生まれるため、表情や声により養育者に快・不快を伝え、助けてもらわなければ生きていけません。この状態にあるときに人間は、「危険」を感じると周囲に助けを求めることができます。
  • 交感神経系…「危険」を感じて周囲に助けを求めても、周囲に誰もいない、あるいは目の前の人が助けを求めても良いような、安心・安全な人でない場合、人間の身体は「危険」を知覚し、「闘争/逃走反応」(逃げるか戦うか反応)を選択します。この状態にあるときに人間は、イライラや強い不安、パニックなどが生じたり、脈拍と呼吸の増加・胃腸機能の低下・ビクッとする驚愕や筋肉の緊張といった身体反応が生じます。これは、過覚醒状態と言われるものでリラックスできていない状態です。
  • 背側迷走神経系…戦うことも逃げることもできないとき、人間はその身体が「生命の危機」を知覚し、不動・シャットダウン・凍りつき(解離)を選択します。これは「生き残りをかけた最後の戦術」であり、ポリヴェーガル理論がトラウマの症状を論理的に解明したシステムです。つまり、動かなくなることでエネルギーを温存し、シャットダウンすることで脳の血流と酸素の供給を減らします。それにより、なるべく苦痛を感じることなく、最小限のエネルギーで生き延びようとします。この状態が慢性化すると、神経が落ち込んだままになってしまい、身体が動かない、落ち込みがひどい、疲労感や無力感のほか、脈拍と呼吸の低下・消化機能の不調といった身体反応が生じます。これは、低覚醒状態と言われるもので諦めや降参・敗北を選択するため、自己否定などの自分を責めるという傾向に陥ります。トラウマを抱えている方に自責的な方や罪悪感を強く感じる方が多い印象を受けますが、この点が関係していることが考えられます。 まずは、自分が3つの神経系のうちどこに位置しているのか把握することが大切になります。