心理療法

HT (ホログラフィートーク)

HT (ホログラフィートーク)

HTとは

HTは、嶺輝子先生が考案したトラウマ治療であり、分類としては軽催眠を用いる自我状態療法の一種に位置付けられます。HTは、クライエント自身が感情や身体症状の意味を読み取り、解決し、自らを癒すプロセスを行います。そこではセラピストは問題の軽減・解消を目指すプロセスを援助するガイドやコーチのような役割を担うことになります。したがって、多くの心理療法で用いられる、対話や教示、訓練などを通じて気づきや変容を促すものとは異なるアプローチを図ります。

HTの治療モデル

【かつてのPTSD治療モデル】
かつてのPTSD治療モデル

【HTの複雑性トラウマの治療モデル】
HTの複雑性トラウマの治療モデル

HTが目指すもの

HTが治療目標として最も重要視している点は、トラウマの処理と健全さの構築です。HTでは4つのステップを通して、クライエントの症状や問題の根源となる過去のトラウマを処理し、境界の構築、健全な愛着の形成や信頼感の解消を行い、それによって回復や健全な発達の基盤を整え、問題解決を図っていきます。

HTのメリットと限界

<メリット>

  • 安全性が高い
  • 軽催眠状態で行われるため、クライエントの意志を確認しやすく、クライエントの意志を尊重できる
  • フラッシュバックやパニックを起こしにくい
  • 顕在意識では明確になりにくい抑圧された問題場面に到達できるため、問題の根本からの解決が図れる
  • トラウマの起源に戻れるため、不可解な症状や困った感情・反応に対する理由が明確になる
  • イメージの中で健全な愛着行動を体験・体感してもらうため、愛着障害の解消に役立つ

<限界>

  • コミュニケーションが可能であることが前提となるため、コミュニケーションが困難な状態のクライエントへの応用は難しい
  • イメージワークが困難な状態のクライエントへの応用が難しい

HTの4つのステップ

ステップ1:課題の決定と外在化

クライエントとともにその日に扱う課題を決めます(精神的な問題だけでなく、身体疾病や痛みなどを課題とすることも可能)。
課題に対する感情や感覚、症状に意識を向け、深呼吸しながらリラックス状態に誘導します。
感情や感覚、症状にゆっくりと近づき、それを外在化(色や形に例える)していき、外在化したものに気分を聞きます。

ステップ2:問題の見極めと解消

問題が発生した起源まで退行誘導をし、その場面が現れたら今の自分が過去の自分の気持ちを聞き、状況の説明をしてもらいます。さらに、過去の自分の望みを聞き、望みを深く承認しながらその望みに沿った解決を施していきます。

ステップ3:健全さの構築と安定化

健全な人々との間で自分が望む関わりを経験してもらいます。これにより、健全な信念や価値観を取り入れ、自分自身の中に安心安全を築きます。

ステップ4:リソースの獲得

最初に外在化したものの変化を確認し、現在の気分や今後の望みを聞いていきます。この望みはクライエントが回復するためのリソースになります。得られたリソースを活性化していく行動課題を考えたり安定化のための簡単なエクササイズを提供し終了となります。

楽になってはいけないという呪い・・・『心理的逆転』とは何か

トラウマケアをするにあたって、触れておきたい概念で『心理的逆転』というのがあります。心理的逆転とは、ロジャー・キャラハンが提唱した概念で、ホログラフィートークの創始者である嶺輝子先生は「楽になってはいけないという呪い」と説明しています。

本来私たちは生まれてきてから「幸せになりたい」「いい人生を送りたい」ということをモチベーションにして様々な選択をしながら生きていきますが、心理的逆転が起きている人は、自分にとって良い選択と悪い選択があったときに、なぜか自分が苦しむ方の選択肢を選んでしまいます。自分は幸せになってはいけないということが無意識のうちに刷り込まれているのです。暴力的で自分を傷つけるパートナーを選ぶ人や心身に限界が来ているのに働きすぎる人など、「どうしてそっちの選択をするの?」という方に舵を切っていく人に心当たりはないですか?あなた自身にも心当たりがあるかもしれません。

そして心理的逆転の一番の問題は、周囲からの心理的、社会的、生理的なケアが奏功しないことです。カウンセリングや診察をはじめすべての心のケアは、ケアを受ける人が今よりも楽に生きていけることを目的としています。しかしそうした目的と、無意識レベルにある「私は楽になってはいけないんだ」という思いは逆行します。なので治療が中断したり、良くなったはずなのにまた元に戻ったり、そもそもケアに繋がらなかったりということが起きます。(治療者の知識や経験不足という要因も大いにあります)

嶺先生によると、心理的逆転の原因として考えられるのは、「虐待、ネグレクト、愛着の形成不全、否定されながらの成長(何度も言われてきた否定文が自分に染み付く)、トラウマティックな体験、ネガティブな信念の刷り込み(自分はこういう立場、存在なんだ。だからそんな自分が幸せになるなんて思えない)、何かの理由により自分を罰しながら生きている、強い恥辱感」があります。また、心理的逆転がみられたケースとしては、「がんなどの重篤な病、望まない生活から抜け出せない(抜け出さない)、自傷・他害する(衝動がある)、虐待をしてしまう、自分を大切にできない、色々なところや場面で虐待を受ける、パートナーからの虐待がある、虐待者をパートナーにする、認められているにもかかわらず離職する、借金をする、浪費する、依存症、どこに行っても治らない・どんどん悪くなっていく難治ケース」がよくあるそうです。

楽になってはいけないという呪い・・・『心理的逆転』とは何か

ホログラフィートークと心理的逆転

ホログラフィートークでは、開始前に必ず心理的逆転のチェックをします。無意識レベルに刷り込まれている心理的逆転なので、チェックシートなど言葉を使う方法は用いません。心理的逆転のチェックにはキネシオロジーで使われる身体の傾きや筋反射をみる方法を用いられます。心理的逆転が起きていたら、まずはホログラフィートークの技法を用いて逆転の解消を行います。

心理的逆転を解消したあとは、ホログラフィートークはじめ様々な方法や安定的な治療者とのかかわりを通して、過去やトラウマに乗っ取られた生活を取り戻すことを目指していきます。

これまでと決定的に違うのは、あなたを潜在的に苦しめてきた「楽になってはいけないという呪い」はもう解けているということです。あなたの心は自然にあなたにとっていい方法をみつけてきて、心の奥底では選びたかったことを選ぶことができる。そんなことが当たり前にできたら、どんな人生が待っているんでしょうか。