トラウマ(PTSD)ケアを求めている方へ

トラウマ・PTSDによる影響

トラウマによる影響は多数あると思いますが、ここではトラウマ記憶の影響や自律神経系の問題で身体に様々な症状が出ること、そして対人関係において子どもの頃の感情の投影することによる影響について紹介します。

トラウマ記憶「冷凍保存された記憶」

トラウマ体験後に脳が正常に機能しないと、トラウマ体験の記憶はトラウマ記憶として冷凍保存されるといわれています。時間が経っても色褪せず、生々しい記憶がフラッシュバックして苦痛が生じるのです。悪夢として現れることもあります。

トラウマ記憶

自律神経系の問題「無意識に起こる身体の変化」

トラウマの影響として、喘息や、過敏性大腸炎、原因不明の疼痛、慢性疲労性症候群などといった身体症状が出ることがあります。これらの症状で検査をしたのに、原因不明といわれたというお話をよく耳にします。その際に疑われるのが、自律神経系の調整不全による影響です。トラウマ記憶は体のメカニズムまで変えてしまうことがあるため、検査をしても可視化できる結果が得られないこともあります。

私たちは、ニューロセプション(=環境中のリスクを無意識のうちに評価する神経的なプロセス)を基に、自身を取り巻く環境や出来事が「安全かどうか」を評価するシステムを備えています。つまり、認知的な判断ではなく、神経系による無意識での受け止めにより「安全かどうか」を評価しているといえます。

トラウマを受けた人が目の前で何となく似たような情景を目にした場合、自覚的に似ていると判断する前に身体が無意識にニューロセプションを引き起こし、自律神経を過去に経験した防衛状態に引き戻して自律神経症状を自動的に発現させることがあります。

同様に、子どもの頃の環境が「安心・安全」ではなかった場合、その自律神経系の反応を身体が記憶していることで緊張や覚醒しやすかったり、そこから抜け出せなくなり身体化(慢性疲労や疼痛など)することもあるといわれています。
それだけ、子どもの頃の環境は大人になってからの自律神経に影響するといえます。

対人関係の問題「ネガティブフィルターによる弊害」

子どもの頃の守ってもらえなかった、愛されなかった、私は大切にされない、私は生きていてはいけないなどのネガティブな感覚は身体感覚として脳に残っているといわれています。そして、その感覚を現実に投影するため、世界や人間関係にネガティブな感情のフィルターがかかり、加害や被害の意味付けをしがちになります。

背景には、心の深いところに覚えていないような過去の解消されない傷や感情があることが多いのですが、本人はそれに気づかずに現実の対象に投影してぶつけてしまうのです。

耐性の窓「感情のキャパのサイズ」

周囲との繋がりが良好で安心・安全感が十分に感じられる状態で育った場合、「耐性の窓」といわれる感情の耐性は大きくなります。耐性の窓が大きいと、日常の様々な刺激があっても感情のコントロールを失わずに、身体の状態も心拍数などが落ち着いて安定してリラックスした状態でいられます。

しかし、子どもの頃に親の夫婦喧嘩をよく目撃していたりなど、安心・安全感が十分に感じられずに育った場合、耐性の窓は小さく、他の人が感情のコントロールを失わずにいられる内容の刺激でも危険を感じやすく、交感神経が働きやすくなります。

また、両親に助けを求めることができないような環境だったとすると、いい子のふりをするようになります。まるでよくやれる優等生のように思われますが、実はそうではなく、キャパシティをはるかに超えて無理をしている状態なのです。

このような状態は「偽りの耐性の窓」といわれるそうです。

*安心感を十分に感じられる環境で育ち、腹側迷走神経が発達している状態
日常の刺激(波線)が耐性領域(緑の枠)内に概ね収まっており、感情のコントロールができている。
安心感を十分に感じられる環境で育ち、腹側迷走神経が発達している状態

*安心感が不十分な環境で育ち、腹側迷走神経が十分に発達していない状態
日常の刺激(波線)が耐性領域(緑の枠)を超えてしまうことが多く、人といて安心できなかったり、感情のコントロールがむずかしくなる。
安心感が不十分な環境で育ち、腹側迷走神経が十分に発達していない状態